コズミック・イラ70
2月14日
後に”血のバレンタイン”と呼ばれるようになる出来事が起きた。
月面のプトレマイオス基地より侵攻した際、ブルーコスモスに所属する将校により、
極秘裏に一発の核ミサイルを搬入されていたことによって起こったものだった。
その攻撃により120基あるコロニーの一つである、食料生産コロニー
”ユニウスセブン”に被害を受け、24万3721名の犠牲者を出した。
なお、ザラ委員長の妻レノアもこのコロニーにいた為、その犠牲の一人になってしまった。
その事件により、ザラ委員長は以前よりも更に厳しさを増していくのだった。
瞳の欠片
0.戦火の予兆
「お兄様、これからお出かけですか?」
「ああ。暫らくラクスにも会っていなかったから、この休暇中に会っておこうと思って」
ザラ家の本宅で同じ色の髪と目をした2人の男女がエントランスで話込んでいた。
彼らは兄妹で、兄のアスランと妹のである。
アスランはこれから出かけようとしていたところ、に見つかったらしい。
久しぶりに家に戻ってきた兄が出かけてしまうのを寂しく思ったのかとアスランは思った。
「そうですか・・・、残念です」
「ごめんな、」
可愛い妹が肩を落とす仕草を見て、アスランは出かけるのをやめようかと思った。
だが、会う約束をしてしまっているので、この可愛い妹の願いを聞き届けることはできそうもない。
アスランはの肩に手を置いて、謝罪する。
次の瞬間、アスランは思いがけない言葉を聞くこととなる。
「いいえ、いいんです。
……今日はイザーク様が着て下さるのでお兄様もご一緒にどうか、と思っただけですの」
「……何だって?」
アスランはの言葉に”は?”と思考を止めた。
自分の可愛い可愛い妹は今、何て言った?
今、通っている軍の士官学校で何かと、絡んでくる同僚の名前だったような気が……。
アスランの考えていたことは別に、は聞こえなかったのかと思い、
もう一度復唱する。
「お兄様もご一緒に……」
「違う、その前」
眉間に皺を寄せて、不機嫌そうにこちらを見ている兄には疑問符を浮かべる。
(なにか、気に障ることでも言ってしまったかしら?)
アスランからイザークの話は聞かないし、その逆も然りだ。
アスランの言葉通り、その前からもう一度、復唱する。
「?…イザーク様が」
「何だって?!」
すぐ傍でそう、叫ばれて反射的には耳を押さえた。
一体、どうしたっていうの?とも流石に眉を顰めた。
いつもの冷静な兄の姿ではないアスランにはとうとう、
令嬢に似つかわしくない大きな声を上げた。
「ですから、イザーク様が着て下さるです!」
「違う、そうじゃなくて…。何で、今まで黙っていたんだ!」
顔を手で覆い、やっと言いたいことを口にし、どこか落胆した様子の兄の姿に
は不安そうに見上げた。
「ご存知ありませんでした?…私、てっきり知っているものと思っていました」
「ああ、知らなかったよ。何で俺が知っていると思ったんだ?」
「だって、お父様がそう言ってらしたので……」
「父上が帰ってきていたのか?」
どうやら、兄は本当に疲れているらしい。
確かに父のパトリックが帰宅した時、兄の姿は此処にはなかった。
だが、夕べも執事が夕食時にその話をしていたのだ。
イザークがくることも、主人が珍しく帰宅していたことも。
いつも冷静な兄が取り乱すなんて、イザークとの婚約が公に決まった時もそうだった。
は何故、イザークのこととなると冷静さに欠けてしまうのか、
不思議に思ったが、彼女にその答えは出なかった。
「それもご存知ありませんでした?」
「ああ」
即答する兄の姿に思わず、は思わずため息が漏れそうになった。
そんなに士官学校というところは兄の思考能力を奪ってしまうほど、大変なのだろうか?
はアスランを本気で心配になってきた。
そして、同じところに通っている婚約者であるイザークのことも。
「お兄様、きっとお疲れなのですね。
ラクス様のところでお休みになって下さいな」
「いや、出来るだけ早く戻ってくるよ」
「そうですか?せっかく久しぶりにお会いできるのですから、ゆっくりなさればいいのに・・・」
なぜ、ゆっくりしてこないのかと、は思った。
めったに会えないのはアスランとラクスも同じだった。
ラクスがアスランのことを心配しているのはも承知の上だったし、
同じ立場にいるはずの兄たちの姿を見て、不思議に思っていた。
めったに会えないが、時間さえできればいつでも会いにいけるのに、
なぜ長い時間、一緒にいないのか、は不思議だった。
には婚約者の他に好きな人がいたのだ。
もう、二年も前になる初恋の人のことが忘れられないでいる。
生きているかさえ、今はもう分からないというのに――――。
「イザークのヤツ…」
「まあ、そんなことがあったんですの?」
クライン家のサンルームでアスランとラクスの二人はお茶を楽しんでいた。
アスランの口から出る言葉は今日も妹ののことばかり。
それは彼女の婚約が決まってからというもの、その名前を聞かないことはないと、
ラクスは思った。
はアスランから紹介してもらってからといもの、
ラクスは彼女を本当の妹のように可愛がっている。
アスランがいつも自慢するのも、頷ける。
「ええ、は騙されているんです」
「アスランはイザーク様に対していつも厳しいですわね」
「もともと、彼とは合わないんですよ。
それなのにとの婚約が決まってから……。最初は乗り気ではなかったはずなんです。
それなのに気づいたら今のような感じなんです」
イザークが実際にに会う前、婚約に対して不満を零していたことをアスランはよく覚えている。
イザークは口が多少悪くても、フェミニストな人物だった。
この婚約が確立するとはいえ、結婚まで進むとは限らない。
だから、アスランは渋々、2人のことを承諾したのだ。
のことを蔑ろにしないと、悲しませるようなことは絶対しないと、何処か信じていた。
イザークの不満を聞いたときにはアスランはためていたものを爆発させてしまった。
それからだ。
イザークがアスランを見る目が変わったのは。
一体、どうしたっていうんだ?
「まあ…。アスランはこの婚約に反対なんですの?」
「…だけでも好きな人のところへ嫁がせてやりたかったんです」
「アスラン……」
ラクスもの想い人については多少なりとも聞いていた。
そして、もうそれが叶うことがないことを。
ラクスは母を失って、一層頑張る二人の姿を見ているのがつらかった。
「どうかしたのか?」
「いいえ、…何でもありません」
イザークの前だというのに、はぼうっと外を眺めてしまっていた。
久しぶりに会えたというのに自分は何をしているのだろうと、自己嫌悪に陥る。
「そうか?…今日はあいつはいないんだな」
「お兄様ですか?今日はラクス様のところに行かれました」
「そうか…」
の言葉を聞いて、イザークの声が低くなったのを感じた。
怒らせてしまった…。そう思った。
居た堪れなくなって、謝罪の言葉が零れ落ちる。
「ごめんなさい…」
「何故、謝る?」
謝る必要がないと、イザークは続ける。
久しぶりだというのにこの、険悪な雰囲気はなんなのだろう?
今日は厄日のような気がすると、シルビアは思った。
こんなことは言いたくないと思ってはいても、には止めることは出来なかった。
「イザーク様はラクス様のことがお好きなのを、私は分かっているのに、こんなことを口にしています。
嫌な女ですよね……、本当に」
「……」
自分の気遣いゼロの言動にさらには自己嫌悪に陥った。
イザークの考えることも知らずに―――――。
あの人に会いたい。
その言葉は届くだろうか?
<あとがき>
キラ出番なし。
もし、連載が決定したときには出ます。
この話はC.E702/21以降の出来事。
アスランとイザークは同じ日にザフトに入隊しているので。
あと、数話したら再会までいくと思います。
ああ、この雰囲気、イザ様が失恋しそうだわ。
もちろん、アンケをとるつもりでいますから、皆様が決めることですが。
ちなみに公式設定でイザークはラクスのファンだったらしいです。
だから、アスランとの婚約は不満だったのでしょうけど、そのうちお似合いだと認めていたとか。
まあ、この2人には愛情はあってもそれは恋愛感情ではないでしょうけど。
キラが好きな方、イザークの好きな方、シスコンアスランが見たい方は投票よろしくお願いします。
あ、ちなみに曲名はFictionJunction YUUKAさんのものです。
興味のある方はきいてみてください。
※サブタイトルは関係ないです。
<06/5/8>